ペースの重要性とペース判定

 競馬において「ペース」は非常に重要である。「そんなことは言われなくてもわかっている」と思うかもしれないが、ペースがスローになれば前にいる馬が有利になり、ハイペースであれば先に飛ばした馬がバテて追い込み馬が有利になる。また、スローペースだと走破タイム(決着時計)も遅くなるため、走破タイムが遅い原因がペースによるものなのか、出走馬全体のレベルが低いためなのかを判断するためにもペースは重要である。
 予想する際も、馬券を買おうとしているレースがハイペースになるか、スローペースになるかで狙う馬は変わってくる。したがって、予想時やレース後の分析においてもペースが重要となる。

 では、ペースが速いか遅いかをどう判断するかについては人それぞれだが、いくつか方法があるため、1つの方法に頼らず複数の方法で判定した方が良いと思っている。例として、2022年4月24日(日)に行われたフローラステークスを取り上げる。

200m400m600m800m1000m1200m1400m1600m1800m2000m走破タイム
3歳G2・東京芝2000m平均12.811.711.812.012.612.512.311.511.511.92:00.6
2022年フローラS12.911.611.411.812.512.612.811.611.411.82:00.4
前後半2分割前半1000m:60.2後半1000m:60.2
前半・中盤・後半3分割前半600m:35.9中盤800m:49.7
(600m換算:37.3)
後半600m:34.8
2段目の「2022年フローラS」がこのレースのラップタイムだが、前後半1000mずつの2分割で見ると、前半・後半ともに「60.2秒」と同じであるため、通常であれば「平均ペース」に分類される。しかし、これを前半・後半600mと中盤で分けて見ると、前半600mは35.9秒、後半600mは34.8秒、中盤800mは49.7秒であり、これを600m換算にすると49.7 * 600 / 800 = 37.3秒となる。これら3つを比較すると、中盤がかなり遅いことがわかる。過去の同クラス・同競馬場のラップ(表の最上段)と比較しても、1200m~1600mのラップが遅くなっていることがわかる。したがって、この2022年のフローラステークスのペースは「スロー」に分類される。前後半の2分割だけを見ると「平均ペース」と判断しがちだが、複数の指標で見ると実はスローペースであることがわかる。

 実際、このフローラステークスの1着~5着馬の通過順位を見ると、

着順馬名通過順位上がり600mタイム上がり600m順位
1着エリカヴィータ/-4-4-434.03位
2着パーソナルハイ/-1-1-134.913位
3着シンシアウィッシュ/-2-2-234.511位
4着マイシンフォニー/-6-6-634.26位
5着ルージュエヴァイユ/-12-11-1133.61位
前方に位置していた馬が粘り強く走っている。余談だが、1着のエリカヴィータと2着のパーソナルハイは、この後一度も馬券圏内に入っていない。3着のシンシアウィッシュと4着のマイシンフォニーも2勝クラスを勝って3勝クラスに昇級した程度。5着のルージュエヴァイユが掲示板に載った馬の中で唯一差してきた馬で、メンバー中最速の上がりを使っていた。ルージュエヴァイユはその後条件戦を連勝し、重賞勝ちはなかったものの、2023年のエリザベス女王杯(G1)で2着、2024年の大阪杯(G1)で3着に入り、G1でも好走するほどの馬となった。

【ペース判定について】

・オーソドックスに前後半2分割で見る
  奇数距離については中盤を除いて2分割。1700mなら前半700m・後半800mに分け、前半を800m換算に変換
・3分割で見る
  前後半600mと中盤を600m換算に変換
・同コース・同条件の過去の平均ラップと比較
  この場合、馬場状態や全体の走破タイムのズレも影響するため、参考程度
・上がり600mとそれ以外の時計を比較
  ラスト600mを各馬が全力で走ると仮定し、それ以外の区間を600m換算して比較

 4つ目の方法を2022年のフローラステークスに当てはめると次のようになる。
  レースの上がり600m:34.8秒
  フローラSの走破タイム:2:00.4(120.4秒)
  上がり600m以外の時計:85.6秒
  上がり600m以外の時計を600m換算:85.6 / 1400 * 600 = 36.7秒
これにより、前半が36.7秒、後半が34.8秒となり、前半の方が遅いことから、この方法でもスローペースと判断できる。

 先に述べた通り、最もわかりやすい2分割で見ると判断を誤る可能性があるが、他の指標で比較することでスローペース(S)と判定できる。このように、上記の4つの判定方法を用いて、スローペース(S)、ミドルペース(M/平均)、ハイペース(H)を判定することが多角的な判断につながると考えている。

 ペースが判断できると前記のルージュエヴァイユのように、着順が悪かったのはペースによるもので、能力で負けたのではないという判断もできるようになる。