タイムが遅いと波乱 配当と時計の深い関係

人気薄が絡む波乱のレース、その背景とは?

競馬の醍醐味の一つに、「大波乱となるレースを的中させること」があります。中でも、多くの人がすぐに思い浮かべるのは、1番人気の馬が敗れるレースではないでしょうか。

実際、2020年1月5日~2025年6月22日の18,933レースを集計すると、1番人気の成績は以下の通りです:

  • 勝率:33.4%
  • 連対率:52.1%
  • 複勝率:64.5%
  • 単勝回収値:79円
  • 複勝回収値:84円

つまり、1番人気の馬は約65%の確率で3着以内に入りますが、裏を返せば約35%のレースでは馬券圏外に敗れているのです。
だからといって、「1番人気が来ない」という前提で馬券を組み続けても、そう簡単には当たりません。100レースを予想しても、的中するのは一桁程度ということもあるでしょう。
 一方、1番人気がしっかり来て、相手も順当に人気馬という“ガチガチ”の決着も当然あります。ただし、1番人気が勝っても、相手が10番人気以下の馬であれば、単勝以外の馬券は難解になります。こうした人気薄の馬は、前走成績が悪かったり、調教タイムが平凡だったりと、“買い材料”が見つけにくいケースがほとんど。突然の激走もごく稀にはあるものの、それを事前に見抜くのは至難の業です。

遅い決着タイムは波乱のサイン?

そんな中、データ分析をしていてふと気づいたのが、「1着馬の走破タイムが遅いレースは、人気薄が絡みやすい」という傾向です。

たとえば、2025年6月8日の東京11R・第75回安田記念を例に見てみましょう。

  • 勝ち馬:ジャンタルマンタル(2番人気)
  • 2着:ガイアフォース(9番人気)
  • 3着:ソウルラッシュ(1番人気)

この組み合わせで、3連複は102.5倍、3連単は659.7倍という高配当となりました。
当日は「高速馬場」と言われる、タイムが出やすいコンディションで、決着タイムは「1:32.7」。これは、近年の安田記念としてはかなり遅めで、スローペースだった2016年ロゴタイプの「1:33.0」に次ぐ低水準です。その2016年の勝ち馬も、8番人気のロゴタイプでした。

一方、決着タイムが速かった年の結果を見てみると、

  • 2023年:1:31.4:ソングライン(4人) – セリフォス(3人) – シュネルマイスター(1人)
  • 2020年:1:31.6:グランアレグリア(3人) – アーモンドアイ(1人) – インディチャンプ(2人)
  • 2019年:1:30.9:インディチャンプ(4人) – アエロリット(3人) – アーモンドアイ(1人)

いずれも人気上位馬が順当に上位を占めています。このように、「速い決着タイム=実力馬が能力を発揮して順当決着」「遅い決着タイム=人気薄のチャンスあり」と捉えることができそうです。

タイムランクと配当データの関係

ここで、グリーンチャンネルの番組『先週の結果分析』が用いている「タイムランク」という指標を使って検証してみました。このランクはレースの決着タイムを基準に、A~E(+SL=スローペース)で評価されており、以下のように分類されます:

  • Aランク:クラス基準よりも優秀なタイム
  • Eランク:クラス基準よりもかなり遅いタイム
  • SLランク:スローペースでタイムが遅くなったレース

そのランク別の配当データを集計した結果がこちらです。

券種ごとの平均払い戻し金(ランク別)

集計期間:2017/01/01 〜 2025/08/10

ランク単勝複勝枠連馬連ワイド馬単三連複三連単
A660円295円1,522円3,379円1,429円6,535円12,376円66,754円
B740円303円1,730円4,016円1,542円7,485円13,117円74,463円
C919円332円1,979円5,085円1,851円9,968円20,394円124,770円
D1,062円347円2,180円5,901円2,004円11,701円22,905円142,994円
E1,252円381円2,578円7,456円2,308円15,213円29,403円188,367円
SL844円296円1,979円4,026円1,366円8,111円12,906円83,324円

券種ごとの平均人気(ランク別)

ランク単勝複勝枠連馬連ワイド馬単三連複三連単
A2.5 人3.7 人5.0 人7.9 人12.0 人14.5 人25.6 人127.9 人
B2.7 人3.9 人5.6 人9.8 人13.2 人18.1 人29.6 人155.4 人
C3.2 人4.1 人6.4 人11.8 人15.1 人22.5 人38.2 人209.4 人
D3.4 人4.3 人7.0 人13.4 人16.4 人25.8 人43.1 人242.3 人
E3.8 人4.5 人7.8 人15.7 人18.2 人30.5 人51.4 人294.0 人
SL2.9 人3.7 人6.3 人9.7 人12.0 人18.4 人26.5 人146.1 人

また、平均人気順もAからEにかけて高くなる傾向にあり、荒れ度の指標としても一貫性があります。
つまり、Eランクのようにタイムの遅いレースほど高配当=荒れる傾向にあるということが、データでも裏付けられたのです。
※券種毎の方は馬券の人気。安田記念の3連単なら209番人気となっている部分の平均値

では、どんな条件で遅いレースになるのか?

タイムが遅くなる理由として、

  • 雨で重くなった芝
  • パサパサの乾いたダート

など馬場状態が想定されがちですが、「先週の結果分析」では馬場差という補正が入っているため、馬場状態そのものはタイムランクに反映されません。
脚質面では、極端に追い込み馬ばかりのレースだとスローになる傾向がありますが、この場合はSLランクに分類されるため、必ずしもEランク=追い込み偏重とも言い切れません。

タイムが遅くなる真の要因とは?

出馬表を眺めていて気づいたのが、「メンバー構成が弱いレース」「持ち時計の遅い馬ばかりの組み合わせ」のレースでは、決着タイムが遅くなる傾向があるということです。
仮に安定して速いタイムで走れる馬なら、すでにそのクラスを卒業して上のクラスで走っているはず。にもかかわらず、同じクラスに留まっているということは、「安定して走れない」「力を出し切れない」などの要因があると考えられます。また、そんなメンバー構成だと、普段逃げない馬が逃げたり、展開に大きな偏りが出たりと、波乱を呼ぶ要素が多くなるのも特徴です。

荒れやすいレースでの狙い方

「このメンバーでは何が来ても不思議じゃない」と思えるような組み合わせならば、軸馬を決めずに展開や調教で好内容を見せた馬、条件替わりの馬(距離延長・初ダート・初ブリンカーなど)を積極的に狙っていくのも有効でしょう。
例えるなら、マークシートのテストで、全く分からない問題をすべて「1」に塗りつぶした方が意外と点が取れるようなもので、水準に満たないメンバー構成なら、思い切った決め打ちも一つの戦略です。ただし、能力的に明らかに抜けた馬がいる場合は、その馬を軸にしつつ、相手には人気薄を加えるといったバランスの取れた馬券構成が良いでしょう。

結論:遅い決着タイム=荒れやすい

タイムランク別のデータからも明らかなように、決着時計が遅いレースほど波乱傾向が強まるという事実は、馬券戦略を立てる上で非常に参考になります。
もちろん、全てが荒れるわけではありませんが、「荒れやすい条件が整っているか?」という視点を持つことで、馬券的中への道がより明確になるかもしれません。

ちなみに…今年の安田記念の出走馬タイムランクは?

ちなみに、冒頭で取り上げた2025年の安田記念の出走馬について、1着馬のタイムランクではなく、各出走馬の過去の走破タイムをABCDE・SLで評価した一覧を見てみると、興味深い傾向が見えてきます。

2025/06/08 () 15:40
東京11R 安田記念(G1) 芝1600m
===タイムランク===
馬番馬名前走2走前3走前4走前5走前
1シックスペンスCCDESL
2ダディーズビビッドC--EESL
3マッドクールEDE--C
4ウインマーベル--DDDD
5レッドモンレーヴCEEDE
6グラティアスEDEEE
7ガイアフォース--EEED
8エコロヴァルツCCCEE
9シャンパンカラーEDE--E
10ジャンタルマンタル--CASLD
11サクラトゥジュールEESLDE
12ロングランCEECE
13ソウルラッシュ--C--CE
14ウォーターリヒトCEDSLE
15ホウオウリアリティEDEEE
16トロヴァトーレDCDDD
17ジュンブロッサムDEEDSL
18ブレイディヴェーグ--DDDSL

この表を見ると、勝ったジャンタルマンタルのみが皐月賞で「A」評価を記録しており、その他の馬は多くが「D」や「E」評価。過去に優秀なタイムを出していない、つまりクラス基準に届かないような実績の馬が多く出走していたことがわかります。
このようなメンバー構成では、当然レース全体の決着タイムが遅くなりやすく、タイムランクも自然と「E」評価に。まさに「タイムの遅いレース=波乱レース」という構図が、このレースからも見て取れるのです。

メンバーレベルの低いレースの見分け方